メーカー(製造業)が行う「ものづくり」には色んなフェーズ・行程があるんですが、この記事ではそれをなるべく現実的なイメージが湧くように解説しています。
多くは「量産までに何段階かあるよ」程度の解説で終わってしまいますが、今回は3つの異なる視野でそれぞれの流れを見てみながら、自社内での量産までの開発ステップを中心に据えて説明してみています。
こうすることのメリットは自分が大きな仕事の中でどこにいて何のための役目を任されているかがよく理解できるようになるということです。詳しくは後述!
3つの流れは以下。
- 自分の会社が他社との取り引きの間でどこに位置しているか
- 自分の社内での量産までのフェーズ
- 自分の属するチーム内での開発フェーズ
お気づきの通り、どんどん大きな視点からスケールダウンしていくようにしてみました。理由は言わずもがな、ちゃんと全体俯瞰してから自分の仕事に落とし込んでいきたいからですね。
ではいってみましょう!
視点1:自分の会社はどういう役目?最後のお客さんは誰?
1つめの視点。
最も大きな流れとして、まずは自分の会社の立ち位置を確認するところから。
これは各メーカーの成果物がどこへ流れて最終的に誰が使うのか?を知る手がかりになるんですね。
例えば分かりやすい例として自動車部品を挙げます。
クルマに使われるあらゆる部品は、コンペといって各メーカーが名乗りを上げて自動車メーカーに自社の製品を採用してもらうように働きかけて採用が決まっています(これを「ML(Maker Layout)を取る」などと言う)。
接着剤や小さなゴムからガラス、オーディオシステム、エンジンやトランスミッションに至るまで、クルマほど各ジャンルのメーカーが一斉に手を上げる業界はそうないでしょう。
つまり「下請け」だらけということ。
下請けというと聞こえは悪いですが、自動車メーカーに部品を採用してもらえるというのは大変名誉なことでしょう。名前は公表されたりされなかったりしますが(OEM)、会社が成長し知名度を上げるには十分すぎるほどです。デンソーは最も良い例でしょう。
ではそのデンソーは納入する製品を全てゼロから作っている?
違いますよね。全ての製品を自社内製にしているわけではなく、それぞれのメーカーからモジュールとして納入してもらっているものも多いです。
なので
まずは自分の会社が作るものは一体どの段階に位置しているものなのか
を知るのが最も大きな視点と言えそうです。
となるとたしかにそうなんですが、なんとなく「材料」と呼べるようなものはあまり「下請け」という概念では呼んでいない気がしますね。
「それなりにまとまった汎用的に使えるモジュール(製品)」のような形態である場合に
- Tier1
- Tier2
などと言うことが多いです。

この「ティア◯」という呼び方は自動車業界ならではです。でも現代はPC/スマホを筆頭に似たような製品は多々ありますよね!
そして、最後のお客さんが誰かもちゃんと考えるべきです。
これは大きく
- エンドユーザー(僕らのような一般の人)
- 会社
の2種類に分かれます。言い方を変えれば
- BtoC
- BtoB
ということにもなるでしょう。
最後のお客さんと自分の会社までの距離が遠い、もしくは使われる目的がビジネス用途(BtoB)などの場合は、自分が関わっている製品へのイメージが湧きにくく、結果としてモチベーションが上がりにくいということもよくあります。
あくまで「比較して」の場合ですが、こういった理由などから僕は「メーカーで技術職をやるならBtoC製品を作っているメーカーが良いと思います」とよく言っています。
その他BtoCとBtoBの詳細や違いについては、下記の記事で思うところを書いています。興味あればどぞ!
まずここまでで自分の会社の立ち位置が明確になりました。
まあ「前置きにすぎない」くらいの気持ちでもいいかも(なんで書いた)
視点2:自社内での開発フェーズ(一般的なものづくりのステップ)
というわけで、一応この記事の本題がここ。
「ものづくりの流れ」について業界のスタンダードと併せて説明してみます。…が、どうやら業界によって呼び名や考え方がかなり違うらしい上、流行り廃りなどもあるのでどこへ行っても正しい内容である保証は全然ありません。まあフィーリングで!
前段の「視点1」などのように、作ろうとしているものは決まっていることを前提にします。つまり、技術の人間がやる仕事(開発~)に限定にするという感じ。

企画とか営業、あとは輸送とかは割愛、ということ!
以下5つのステップに分けて解説していきます。
1.PoCづくり
本当はこの前に「要件定義」などと呼ばれる超大切なフェーズがありますが、今回は「作るものは決まっている」という前提があるのでカットしています。
要件定義:
お客さんが欲している「何か」を整理し、こちらが何をどう提供すればその要求を満たせるかを考え定義すること。どちらかというとソフトウェア開発で使われてきた言葉だと思いますが、ものづくりの業界でもしょっちゅう耳にします。
「PoC」とはProof of Conceptの略で、「概念実証」という意味を持ちます。
概念実証という言葉からこのステップでの目的は推測できると思いますが、実際には色々な意味合いを含んでいます。
- 今回作ろうとしている製品は本当に実現可能なのかを確かめる
- キーとなる仕組み、システム、機構だけをシンプルに作り、本当に価値があるかを確かめる
- 単なる「試作の試作の…」という意味合い
などなど。
作ろうとしているものがものすごく難しい技術を詰め込んだものならまずここに辿り着くまでに幾年という歳月がかかっているでしょうし、研究開発部など別の部門が主体となっていたかもしれません。
「商品化」という意味ではここで初めてまともな形になるイメージですね。
2.試作(ゼロ試)
PoCで製品の成立性など諸々が確かめられたら、いよいよ実際の製品に近づけたものづくりを始めます。
この時点では全て「手作り」です。
手作りと言ってもみなさんが想像するような職人がひとつひとつ組み上げていくようなイメージというよりは、「大量に自動量産しない生産」くらいのイメージです。
製造業の世界では、「量産」と言ったら世界に供給するために完全にラインが稼働して大量に生産している状態、「試作」と言ったら小ロット生産や軽く手作りくらいの感じです。
そうは言っても図面はちゃんと引いて基板メーカーや板金メーカーに出図するし、この時点で開発っぽいことは普通にやります。それらの「組み立て」が人の手、というとイメージが湧くでしょうか?

試作するサンプルが少なくていいときはもちろん全部手作りということもあります!僕も経験あるけど、キツかった…。笑
「ゼロ試」と書きましたが(こんな呼び方を全くしていない業界もあるかも)、最も最初の試作は「とりあえず形にする」くらいの目的の方が強いですから、まだ精度や要件定義の満足度具合も低いです。
この状態の試作サンプルを持って、色んな客先に回ってビジネス獲得に勤しむこともあるでしょう。
完成度的には展示会などに出すのは少し早いかも…。
3.試作(1試~)
ここから本格的な開発スタートのイメージ。会社として開発投資が大きくされるようになるのもこの段階からと言ってもいいかもしれません。
「いいねぇ」と言ってくれる取り引き先も現れ始め、「こういう仕様のサンプル作ってくれない?」などど偉そうなことを言ってきやがるメーカー様もたくさんいらっしゃいます。
市販商品(BtoCビジネス)の場合は自分たちだけで進められるので気持ち的にもかなり楽。そのかわり独りよがりなモノが生まれやすいんだけどね…。
自分たちの開発用(デバッグ/実験/テスト)の試作サンプルも用意しなくてはならないし、お客さんに渡すサンプル数も増えてくるなど、やや数も多くなってきます。

僕らも普段の業務で試作サンプルを多用します。だいたい足りなくて取り合いになるw
この次から「量産設計」というのが控えているんですが、これは会社として莫大な投資をして製品の生産を始めることを決定した段階なので、この試作段階の間で考えられる懸念点は全て解決しておく必要があります。実際にはそんなことは無理だけどな!
- 想定していた課題はクリアできているか
- あらゆる状況で不具合が発生しないか
- 温度や湿度環境、振動・ノイズ・衝撃への耐性があるか
実験とテストを繰り返し、何度も試作のバージョンアップを重ねて「これ!」というところまで持っていきます。
それに併せて試作のver番号が上がっていくのが普通で、僕のところでは
- 1試
- 1.5試
- 2試
みたいな感じです。「試」が「T」になることもあります。「1.0T」とか。
これ、話をしたことがある他社とは通じるんですが、ひょっとして特定の業界だけ…?ググってもあんまり出ないんですよね。
無事全ての課題の解決が確認し、会社からのGOも出たらいよいよ量産設計の開始です。
4.量産設計
ここから量産設計です。
勘違いしないでくださいね、「量産」自体はまだ始まりません。「量産するための設計」が始まるんです。
ここでの目的は「試作品で証明できた製品を、どうやったら大量に同じものを高い精度で生産できるかを考える」ことです。これを量産設計と言います。
ライン、つまり工場の立ち上げなども絡んでくる関係上、ここからは設計/開発部門だけではなく生産技術や品質保証といった他部門も関与してきます(実際、量産直前の主管分門は生産技術や品質保証であることが多いです)。

※今回はここにある「TP」「PP」「MP」などの区切りではお話しません。業界や会社によっても随分差があるっぽいので、「量産設計の中にもたくさん段階があるんだ」くらいに思っておくといいと思います。
このように「本当に大量生産をスタートさせていいか?」を色んな観点から確かめつつラインの工程設計をしていくのが量産設計とも言えます。
量産設計内のフェーズについては、会社ごとはもちろん業界や時代によっても随分変化があるようなので、以下なるべく分かりやすく3つに区切って説明してみます。
1.試作用金型でお試し生産
量産には「金型」というものを使います。
板金などを決めた形に打ち抜いたりするためのものですね。
これ、個別に専用発注するので死ぬほど高いんです。
金型ひとつ発注するのに◯億みたいなスケールだったりするので、ここは失敗できないわけです。
なのでまずは試しに作った金型で試作をしてみて、ちゃんと意図した製品が作られるかを確認するのがこのフェーズです。
100%不都合が出てくるので(笑)、まあゴニョゴニョやって色々直したりします。ここまでは僕ら開発の人間の出番もけっこうあります。
2.量産用金型でライン生産
「金型はオッケー!」となったら、いよいよ量産用の金型に置き換えた上でラインに乗せます。
この時点でほぼほぼ最終形態に近い状態なんですが、金型だけ単品でチェックしたりラインの流れだけを確認したり、僕ら開発の人間ではなく色んな部署の人が色んなテストをしに来たりなどなど、細かい作業が続きます。
ここまで来るといわゆる「開発」というものは全て終了していて、余程のことが起きて手戻りがない限りこのままゴールへ進んでいきます。
3.本型本工程
これが最後のチェック。
「ある決まった単位の量を生産してみないと分からない問題もある」ので、大量生産のうちの一単位を本番用としてテストすることもあれば、このままこれが出荷用の生産となったりすることもあります。
この辺は正直僕も何が一番スタンダードなのかよく分かってません。ノリでいきましょ、ノリで。
5.量産→出荷→発売!
いよいよゴール!
全てを本番用の状態にして、ラインを稼働させて出荷用の製品を生産します。
僕ら開発部隊が行う仕事はとっくに終わっていますが、例えば
- サービスマニュアルの整備・改訂
- お客様サポートに上がってきた問題から問題を調査
みたいな仕事があることもあります。
基本的に一度発売まで至った製品に関しては開発部門の人はノータッチなはずですが、詳しい知識が必要だったり製品のバージョンアップなどが控えていたりする場合はその限りではないという感じですね。
ここまでが「超ざっくりものづくりの開発フェーズ解説」でした!
これ以上詳しくしようにもケースバイケースすぎて噛み砕けないので、僕にはこれが限界です…。
視点3:自分の所属チームがやるべき開発内容
最後。
一番狭い視点として、「自分の所属するチームが開発を担当する部分はどこなのか?」を理解しようというのがこの3つめの視点です。
僕自身がそうだったんですけど、新人の頃や初めて入ったプロジェクトって自分の仕事が何のためのどこのものなのか一切分からないんですよ。
全体像が見えるようになるまではかなり時間がかかるわけですが、それを常に意識しておくと日々の仕事も捗るよね!ということを僕は言いたいです。
物事には必ず目的があります。
仕事なのでインプットとアウトプットもあるでしょう。
これらを明確にするだけで、自分の仕事がその後誰にどう影響していき、最終的にどれくらい役に立つかまで分かりますよね。これは日々のモチベーションに大いに影響します。
「手探りでやってた仕事がアホみたいな雑用だった」なんてオチ、みなさんも経験ありません?
そんなものは突っぱねられるようにするためにも、自分がどこに位置しているのかの観点は常に忘れないべきだと思います。
今回はそれもお伝えしたかったので、ものづくりのプロセスを解説しつつ、3つの流れに渡ってスケールダウンしながら具体的にイメージできるようにこの記事を書いてみました。
なんだか微妙に上手くまとめられなかった気もするんですが、なんとなく伝わりました?
ノリでいきましょう、ノリで。
おわりに
ぶっちゃけ現代のものづくりは「視点2」で書いたようなプロセスをみっちりしっかりやっているという時代ではありません。
中国や台湾の優秀なメーカーが高品質な製品を安価に作れるのはそうしてスピード感の違いも大きな要因の1つであり、「日本のものづくり」とやらは随分と腰が重くてのろまだなどとよく言われます。お国柄が出てますね。
日本の大手メーカーですら「要件定義と試作までは自社でやるけどその後すぐに量産は外注丸投げ」というスタイルも増えています。
僕は別にどっちが悪だとかは思いませんが、とにかく時代の流れに乗れないビジネスは死んでいくのは間違いないので気をつけないといけないでしょうねえ。
なんか、どうも最後まで趣旨がブレるというか言いたいことがまとまらない感じの記事になってしまいましたが、まあいいか!
ノリでいきまs(ry