この記事では、カーナビを購入する際の視点を大切にしながら現在位置測位機能の基本的な仕組みを説明しています。つまりオーディオなどその他のエンタメ機能は対象にしていません。
また、1ページの情報量が過剰になってしまうのを防ぐためにもっと技術的で詳細な内容はそれぞれの項目の中で別記事のリンクを載せるに留めています。興味ある方はぜひご参照ください。
実際のカーナビの選び方や、各メーカーごとの特徴などについては以下の記事が参考になるかと思います。僕の感想も織り交ぜつつのまとめ記事です。
それと「カーナビなんて買わなくてもスマホとかで十分じゃん」という意見に対しても、この記事を読んでいただくことでその意味の違いを十分に理解できるような内容にしているつもりです。
カーナビができること
そもそも「カーナビはなにをやっているのか?」という視点で一度整理しておきましょう。
これは簡単です。
そのカーナビが装着されている車の現在位置を常に知らせ、設定されたルートに従って案内をする
ですね。その名の通り「車(Car)を案内(Navigation)する」わけです。
ルート探索自体は機能や仕組みというより、ソフトウェアのアルゴリズムによるところが大きいので今回の趣旨からははずれますし、実は探索のアルゴリズム自体はどれも大差ありません(有名なセールスマン問題というのがあるように、最短経路を求めようとする姿勢は基本的に同じです)。
メーカーによって決定的に違うのはそもそもの地図の道路情報量の圧倒的な差で、「ない道は探索できない」というわけで如実に精度が変わったりします。あとは渋滞情報の扱いも大きいです。
ドライバーに現在位置を伝えるために使われている要素は3つある
その「現在位置を伝え続けるため」にキーとなる要素は 3つ あります。
- GPS
- センサ類
- マップマッチング
ここから各説明に入っていきます。
GPS
ひとつめ。多くの人が真っ先に思いつくのがこのGPSでしょう。
GPSとは?
ここをそもそも「GPS」という名称で紹介するのは実は間違っています。
「GPSとはアメリカが打ち上げている軍事衛星で、その一部が民間のために開放されている」というところまでは有名ですが、実は位置の測位に利用している衛星はGPSだけではないのです。
というわけで、厳密にはここのトピック名は「衛星ナビゲーションシステム」という意味である「GNSS (Global Navigation Satellite System)」とするのが正しいでしょう。この中に「アメリカが持つ衛星として」GPSがあるわけです。そして「日本が持つ衛星として」の「準天頂衛星システム」など、他の何種類もの衛星も利用されています。
僕が思う理解をややこしくしている原因のひとつに、GPSと肩を並べるロシアの「GLONASS」が、総称である「GNSS」と妙にネーミングが被るから、というのがあります(GNSSってなんて読むんでしょう?)。
とにかく、「カーナビにはたくさんの国の衛星システムを使っていそう」ということが分かりました。
※色々めんどくさいことを言いつつも、読みやすさのために以下衛星システムの意味としての「GPS」で進めます。笑
GPSの持つ情報は?
では実際にその衛星たちを使ってどのように車の位置を特定しているのか?という部分です。
もっと詳しい内容は下記記事へどうぞ。前述の各国の衛星についての情報も記載しているのでおもしろいと思います。
まず、GPSの電波を受信することによって得ることができる情報は以下の2つのみです。
- 衛星の絶対位置(速度、方位等含む)
- 正確な時刻
ここでのポイントは、衛星が直接その車の位置を教えてくれたりすることはないということです。つまり、もうこの時点でナビの機種によって精度に差が出ることが示唆されています。
それらの情報から車の位置を特定する
以降、下記のような流れです。
衛星には原子時計という超正確な時刻を教えてくれるものがあって、これとGPS受信機との間で「電波が到達するのにかかった時間」が分かります。それに電波の速度(光速)を掛け算することで距離が分かります。
そうすると衛星の位置と車との距離が分かったので位置の測位ができる、ということになります。でも僕らの実際の世界は三次元のため、完全に特定するには衛星も3つ分必要になります。
それに2次元だと交点は2つできてしまいますが、3次元ならある1つの区画に絞られます。
「カーナビゲーションシステムのスタンダード」とは以上のようなイメージと言えるでしょう。
でも実際には誤差がある
ただし実際には、お察しの通り誤差があります。そもそも上述の図でも「交点」という意味ではまだまだ1点に定まっているレベルではありません。
誤差として一番怪しいのは受信側の時刻ですね。なんせ衛星に載っている超正確な原子時計なんて1つで何千万円とかってレベルでしょうから、そんなものカーナビに同梱できるわけがない→→つまり送信側がいくら正確でも受信側の精度が低いのです。
というわけで、実際には1つの系の現在位置測位には基本的に 4つ の衛星を使うのが現在の標準です。
もともとの3つの衛星の誤差はどれも同じだけであるから、4つめでその測定誤差自体を解にしてしまおうという考え方です。詳しくは先程のリンク先記事をどうぞ。
とは言ってもいつも4基の衛星と通信し続けられるわけではないので、「2つのときは高さが変わらないと仮定しよう」とか「3つのときは誤差がないと信じよう(笑)」とか、色々がんばっているわけです。
ちなみに、衛星側から提供される時刻にたった100万分の1秒でも誤差があると、最終的に僕らが見る地図上でのズレは300mにもなります。このレベルのことを軽く行っている現代の技術は、やっぱりすごいですね。
センサ類
「センサ」とは物理的な量を測るための部品なので、実際にカーナビに搭載されている物体を指します。
前述したようにGPSの測位だけでは誤差があったり、そもそも電波が入らない状況ではどうしようもない点に対する解決のために、主に 3つ のセンサがカーナビには搭載されています。
ちょっと難しい話になってしまいますが、このセンサ類で得られる情報は「相対位置」というもので、この情報をGPSの「絶対位置」への補正とすることで高い位置測位精度を実現しています。
ジャイロセンサ
最近ではスマートフォンへの搭載も一般的になったので名前に聞き覚えのある方も多いでしょう。ゲームのコントローラーにも増えてきましたよね。
ジャイロセンサは角度が測定できるものなので、主に「車が左右どちらの方向にどれだけ曲がったのか」という情報を得るのに使われます。
勘違いしやすいですが、床の傾斜という意味での「角度」をカーナビで検知しているのはジャイロセンサではなく次に出てくる加速度センサです。
加速度センサ
加速度センサは、今書きました通り傾斜角度の検出と移動距離の算出などがメインの仕事です。少々ややこしいのですが、後述の「車速パルス」の有無によって役割が代用されたりします(車によって車速パルスの情報を取れない場合などがあるため)。
カーナビにとって傾斜角度を知ることはとても大切なことで、坂による減速対応や高速道路などへの侵入検知、渋滞しやすい場所の特定に役立てられる、など多くの貢献をしています。
車速センサ(車速パルス)
これはその名の通り車がどれくらいの速度で移動しているか、もしくはその情報を元にどれくらいの距離を移動したかの算出に使われます。
上記画像のように、タイヤの回転に合わせて発生する信号を波形としてECU(車の頭脳)で処理します。この波形の場合だと、下の周波数のほうが上の倍、ということになりますね。
しかし実際に回ってパルスを生成しているのはタイヤではなくて「スピードメータ駆動軸」というやつで、これが何回回転したら1パルス、という風な定義のされ方です。
この「何回転で1パルスか」というのは車によって違いますが、主にメーカーで大別できます。
メーカー | パルス数 |
トヨタ、ホンダ、その他 | 4 |
日産など | 2 |
輸入車 | 20~40など |
1kmあたり637回転
つまり60km/hでの走行時に637rpm
なので、例えばスピードメータ駆動軸が毎分637回転しているときは時速は60kmを示していて、かつ2548パルス発生していることになります(4パルス時、実際は毎秒なので1/60で42.47[Hz])。
あとはその1パルスあたりの距離を求めれば車速から移動距離が分かる、という流れです。
でもタイヤの回転で移動距離を計測しているなら、ちょっと精度に怪しさを感じたりしませんか?だってタイヤによって口径違いますもんね。
でもここは実はおもしろいところで、各社「タイヤ外径補正」という機能によって手動でパラメータを入力することでうまく補正する手法を実現しています。ケンウッドの彩速ナビやパイオニアのカロッツェリアに見られます。
この車速パルスに限った話ではありませんが、一瞬だけデータが途切れたりした場合はGPSの測位を優先させたり、もしくはその逆を行ったり、さらには過去の学習データも活用するなどのようなお互いがお互いを助け合うような構成で現在位置測位は実現されています。
マップマッチング
最後の3つめは「マップマッチング」という技術です。これは聞き慣れていない方も多いでしょう。
言わば「おまとめ役」で、前述の2つの要素「GPS」と「センサ類」によって得られた自分の位置を地図データの道路上にいい感じに乗っけてくれるのがこのマップマッチング。
役割の意味的には2つで、
- 正確に分かった(と思われていた)自分の位置がもし実際の道路からズレていたら近くの道路に補正させるようなもの
- GPSの絶対位置とセンサ類の相対位置というお互いでも補いきれない弱点をさらにカバーしてくれるようなもの
という感じです。
ここは詳しく説明するとどんどん奥が深くなっていってしまうので、一旦切りますね。
ポイントなのは正確な位置だけが分かっても意味はなくて、カーナビの地図上に正しく表示されるところまでできて初めてユーザーの役に立つという点です。
ここまでを含めて、カーナビの位置測位においては3つの要素が大きく働いているということが理解していただけましたでしょうか。
カーナビを購入する際に気をつけられることは?
ではここまでを知った上で、実際にカーナビを選ぶときに便利になる知識はなんでしょう?
例によって 3つ あります。また3つです。
- GPSの情報から位置を測位する計算精度
- センサ類の精度、もしくは有無
- 地図データの情報量
以下、ひとつずつ説明していきます。
1.GPSの情報から位置を測位する計算精度
さっきはさらっと紹介してしまいましたが、実は距離を使って位置を求める計算はすごく大変なことをやってくれています。特に4つめの誤差を含める部分が大規模な計算だと言われていますが、ここの計算は明確な答えを1つ出し続けるのではなく、頑張れば頑張るほどより良い答えに近づいていけるような計算のため、コンピュータの処理能力によって測位精度が変わってくるようなことが起きます。
なんとなく「従来より処理速度が2倍速くなったCPUを搭載し…」みたいな売リ文句を胡散臭く感じるのは僕も同じところですが、カーナビに関してはメインの頭脳となる部品の能力はそのまま測位精度に直結するでしょう。
PCと違って明確な部品構成などが仕様として公開されていることはほぼないと思いますが、簡単な見分け方があります。
高いものほど良い部品を使っています。
なにを当然なことを!って声が聞こえてきそうです。でも、今まで「カーナビの値段の違いって、機能の豊富さや画面の綺麗さ」とかにあるって思っていませんでしたか?
目で見るだけでは分からないこういった測位精度なども、各社とも上位モデルは飛躍的に向上しているパターンがよく見られます。
例えばパイオニア(carrozzeria)のエントリーモデル「楽ナビ」にはなくてフラッグシップモデル「サイバーナビ」にはある「自車位置専用システム レグルス」というのは、GPSの位置計算とセンサの情報処理だけを専門にやる高機能ICチップだそうで、如実に差別化を図っています。
ちょっと今までとは違う視点を掴めたでしょうか?
2.センサ類の精度、もしくは有無
ここは最も分かりやすい上に重要なポイントです。
今回は理解しやすくするために車速パルスに絞って話を進めますが、結論から言うと車速パルスを取得できるのはカーナビだけで、スマホはもちろん、ポータブルナビでも取得できません。つまり、トンネル内などGPS電波の入らない場所では完全に自分の位置を測位する方法を失うことになるのです(最近のポータブルナビは独自の機能でトンネル内でも見失いにくくなっています。その点スマホは即全滅という感じです)。
これがカーナビゲーションの他にはない一番の強みです。
「たったそれだけのことか」と思われる方もいるでしょう。「トンネルだけなら我慢できるし」という方もあるかもしれません。
しかし、そもそも他のセンサ類の機能が乏しいのでスマホやポータブルナビは走っていると位置が飛ぶことが多いです。スマホに関しては普通の道を走る分には割りと精度は良いなと僕も感じますが、高速道路と幹線道路などのような縦に平行して2本走るような道だったりとちょっと特殊な状況になるとやはり信頼性は著しく下がります。
もちろんモノには目的とそれに対する選択があると思うので、時と場合によって使い分けられるのがベストです。僕もそうしています。
3.地図データの情報量
マップマッチングの項では「近くにある道路に算出した自分の位置を合わせる」というようなことをお話しましたが、では「算出した結果、近くに道路がなかったら」どうなってしまうでしょうか?
そう、全く違う道路を走っていることになってしまうのです。「地図を更新していない状態で存在しない高速道路を走っていたら、近くの下みちに何度もズレていった」という経験がきっとみなさんあるでしょう。
なにが言いたいかというと、地図の道路情報量が少ないと、それだけ意味のわからない道に飛ばされることが多くなるということです。
にわかには信じがたいことですが、各カーナビメーカーが採用している地図の制作会社もいくつかあって、その情報量の差はおそろしいものです。車も走れる大きい公園なのに敷地内に一切道はない、というほどの差があるくらいです。
ここはカーナビを使い始めてから最も重要なポイントだと気付くポイントの1つだと思いますので、お店に行ったら必ず店員さんに「地図情報が一番豊富なメーカーはどこですか?」と必ず訊くようにしましょう。
渋滞情報を取得してルート案内をする、というようなシーンでもこの情報量は当然重要になってきますからよく覚えておくといいですね。
まとめ
カーナビの(地図や測位に関する)基本的な機能を提供している要素は大きく 3つ に分けられる。
- GPS
- センサ類
- マップマッチング
そしてそれら3つは、スマホアプリのナビやポータブルナビより高い測定精度を維持するために実はすごくがんばっている…。
と、要約するとこんな感じの記事でしたがちょっとは楽しんで読んでもらえたでしょうか?
カーナビはお店に行っても書いてある説明だけではなかなかスペックの理解が難しく、実際に使い始めたから不満に気付くケースがあとを絶ちません。
しかし少しでも中身を理解してから調べてみるのではおそらく得られる情報量は全く変わってくるでしょう。カタログの端っこの小さい文字を読んでみたりすると、意外なことが書いてあったりするものです。
物事は仕組みが分かってこそ本質的に捉えられるものと思うので、こういう記事がみなさんの良いカーナビ選びに繋がれば幸いです。